大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和48年(ワ)207号 判決 1973年11月29日

原告 中央信用組合

右代表者代表理事 藤井実

右訴訟代理人弁護士 林信一

被告 堀田市郎

<ほか三名>

右被告ら訴訟代理人弁護士 能登要

右訴訟復代理人弁護士 飯野昌男

主文

一  (一) 被告堀田市郎と同佐々木重一との間で別紙第一物件目録の土地について昭和四七年五月一日した賃貸借契約を解除する。

(二) 被告佐々木重一は、本判決一(一)の確定を条件として、原告に対し右土地について別紙賃借権目録(1)の賃借権設定登記の抹消登記手続をせよ。

二  (一) 被告堀田市郎と同中西澄雄との間で別紙第一物件目録の土地について昭和四七年八月三一日した賃貸借契約を解除する。

(二) 被告中西澄雄は、本判決二(一)の確定を条件として、原告に対し右土地について別紙賃借権目録(2)の賃借権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。

三  (一) 被告堀田市郎、同堀田キヨと同佐々木重一との間で別紙第一物件目録の建物について昭和四七年五月一日した賃貸借契約を解除する。

(二) 被告佐々木重一は本判決三(一)の確定を条件として、原告に対し右建物について別紙賃借権目録(3)の賃借権設定登記の抹消登記手続をせよ。

四  被告中西澄雄は別紙第二物件目録の物件を同第一物件目録の土地、建物から搬出してはならない。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一申立

一  原告

主文と同旨の判決を求める。

二  被告ら

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求の原因

一  訴外清水守美は被告堀田市郎に対して有する金銭消費貸借上の債権二、〇〇〇万円(利息年一割五分、損害金年三割)を被担保債権として、同被告の所有する別紙第一物件目録の土地(以下本件土地という。)ならびに同被告と被告堀田キヨの共有する同目録の建物(以下本件建物という。)について抵当権を有し、昭和四三年三月二九日その設定登記を得ていたところ、原告は昭和四五年八月二六日右清水から右被担保債権と共に抵当権を譲受けて同年八月二七日その旨の抵当権移転の付記登記を得、現に被告堀田市郎に対し右二、〇〇〇万円とこれ対する昭和四五年一〇月一日から完済まで年三割の割合よる損害金の支払請求権を有している。

二  (一) 前項の抵当権は順位二番であり、本件土地建物にはその先順位一番として訴外株式会社北陸銀行のために債権元本極度額八〇〇万円の根抵当権が設定されているところ、本件土地の現在の価格は四三六万八〇〇〇円、本件建物のそれは五五四万四〇〇〇円である。

(二) しかるに、被告らは本件土地建物について主文第一ないし第三項および別紙賃借権目録(1)ないし(3)に記載する内容でそれぞれ賃貸借契約を締結し、かつ同賃借権目録(1)ないし(3)記載の賃借権設定登記ないし仮登記手続を経由している。

(三) 前項の各賃貸借契約は原告の前記抵当権に損害を与えるものであることはその賃貸借契約内容自体から明らかである。

(四) よって、原告は被告らに対し右各賃貸借契約の解除と、同設定登記および仮登記の抹消登記手続を求める。

三  (一) 別紙第二物件目録の物件(以下本件動産という。)は本件土地、建物に附加して一体をなしているもので、原告の前記抵当権の効力が及ぶものである。

(二) 被告中西は同堀田市郎、同堀田キヨから本件動産の所有権を取得したと称してこれを本件土地、建物からいつでも搬出することができるものである旨を原告に通告してきた。

(三) よって、原告は右抵当権の妨害を予防するため、被告中西に対し右搬出の禁止を求める。

第三請求の原因に対する被告らの答弁

一  請求原因一のうち原告が清水から原告の主張する被担保債権と共に抵当権を譲受けたことおよび原告が現に被告堀田市郎に対し原告の主張する債権を有することは不知、その余の事実は認める。

二  (一) 同二(一)の事実は認める。

(二) 同二(二)の事実も認める。

(三) 同二(三)の事実は否認する。

三  (一) 同三(一)のうち本件動産が本件土地建物に事実上付着していることは認めるが、原告の抵当権がこれに及ぶとの主張は争う。

(二) 同三(二)の事実は認める。

第四被告らの抗弁

一  原告の本訴請求は被告らの正当な取引行為に基づく権利を不当に排除しようとするもので、権利濫用であるから許されない。

二  被告中西は次のとおり本件動産の所有権を取得し、これをもって原告の抵当権に対抗しうるものであるから、原告の同被告に対する妨害予防請求は失当である。すなわち、被告中西は同堀田市郎に対し一〇〇万円を貸与していたところ、昭和四七年五月一八日右貸金の弁済期を同年五月三〇日と定めると共に、原告の抵当権の存在を知らずに本件動産を譲渡担保としてその所有権を取得し、同日占有改定の方法でその引渡を受けた。ところが、右弁済期を経過するも右貸金の返済がなされなかったものである。

第五抗弁に対する原告の答弁

一  抗弁一は争う。

二  同二のうち被告中西が本件動産の所有権を取得したことは否認する。仮に右所有権を取得したとしても、これをもって登記を有する抵当権者である原告には対抗できないものである。

第六証拠関係≪省略≫

理由

第一賃貸借契約の解除、同設定登記等の抹消登記請求について。

一  請求原因一のうち清水守美がその有する原告主張の債権を被担保債権として原告主張の抵当権を有し、昭和四三年三月二九日その設定登記を得ていたこと、被告堀田市郎が、本件土地を所有し、同被告と被告堀田キヨが本件建物を共有すること、原告がその主張するとおりの抵当権移転の付記登記を得ていることおよび請求原因二の(一)(二)の事実はいずれも当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫によれば、原告が昭和四五年八月二六日清水守美から右被担保債権と共に抵当権を譲受けたことを認めることができる。

右の事実によれば、本件土地建物の価格は原告の有する抵当権の被担保債権の元本額にも満たないものであるところ、右抵当権設定登記後被告らが締結した本件短期賃貸借はいずれも期間中の賃料全額前払いの負担を有するものであるから、右賃貸借はその存在によって下落したとされる価格の数字にかかわらず右抵当権に損害を与えるものというべきである(最高裁昭和三四年一二月二五日判決民集一三巻一六五九頁参照)。

二  ところで、被告らは本訴請求が被告らの正当な取引行為に基づく権利を不当に排除しようとするものであるから権利濫用であって許されない旨主張するが、他に特段の事情の主張も伴わない右主張はそれ自体失当といわなければならない。

三  そうすると、被告らの締結した本件賃貸借契約の解除を命ずべきであり、従って、被告佐々木、同中西は右解除の判決の確定を条件として本件賃借権設定登記および同仮登記の抹消登記手続をする義務があることが明らかである。

第二妨害予防請求について。

一  請求原因三の(一)のうち本件動産が本件土地建物に事実上付着していることは当事者間に争いがなく、右の事実と本件動産自体の品目内容に徴すれば、本件動産はいずれも本件土地建物の構成部分もしくは従物として経済的一体性を有するものと認めることができるから、本件土地建物に附加して一体をなしているものと解するのが相当である。従って、原告の有する前示抵当権の効力はこれらに及ぶものというべきである。そして、請求原因三の(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、被告らの抗弁について判断する。

(一)  抗弁一について。

本訴請求が権利濫用で許されない旨の被告らの抗弁一は前同様失当である。

(二)  抗弁二について。

被告中西は本件動産の所有権を取得し、かつ占有改定によりその引渡を得たから原告の妨害予防請求は失当である旨主張する。しかし、仮に同被告がその主張するとおり本件動産の所有権を取得し、かつ右占有改定により引渡を得たとしても、前示のとおり原告の有する抵当権の効力が本件動産に及んでいる以上、同被告は本件動産の所有権を主張しうるだけであって、それ以上に原告の右抵当権の効力まで否定することはできないものであるから、同被告の右所有権取得の有無等の点について判断するまでもなく、同被告の抗弁二は理由がない。

三  ところで、一般に抵当権は目的物件の利用権および処分権を奪う効力まで具有するものではないが、しかし、目的物件の附加物が毀損される場合は勿論のこと、さらに目的物件より搬出される場合にも、抵当権の把握している目的物件の交換価値は減少を来す結果抵当権は侵害されることとなるから、抵当権者は右の所為の禁止を求めることができるものと解するのが相当である。そうすると、原告は被告中西に対し本件動産を本件土地建物より搬出することの禁止を求めることができ、同被告はこれに応ずる義務があることが明らかである。

第三結論

よって、原告の被告らに対する請求はすべて理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大田黒昔生)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例